ハフィントンポスト日本版の記事で「フィンランドで出生率を伸ばし、児童虐待死を激減させた「ネウボラ」 つながる育児支援に日本も注目」なんていう記事がありましたが、実際のところどうなのでしょうか?また、日本が出生率を改善するのには何が必要なのでしょうか?
ハフィントンポストの記事には
一方、フィンランドの出生率は、1.71と日本の1.42に比べて高い水準(2014年)にあり、子どもの虐待死件数も減少。その背景にあるのが、「ネウボラ」であると吉備国際大学保健医療福祉学部の高橋睦子教授は指摘している。
なんて書いてありますが、実際に統計を見てみると、まずネウボラが出生率を延ばしているようには見えません。
まずはフィンランド統計局Tilastokeskusのページを見てみましょう。それによると、1969年は2.1だった出産率は、2010年は1.87、2013年は1.75、2014年の1.71と年を追うごとに出生率が下がっていっています。まずネウボラが存在している状況でも出生率が下がっている事実があるわけです。
もちろん今の出生率よりも低い数字になっていないのは(まあ来年はまた下がるのでしょうが)、ネウボラがあるおかげもあるかもしれませんが、それ以外にも要因があります。その一つは、日本と違いEU加盟国であるフィンランドは、移民・難民の受け入れを行っているということ。
Tilastokeskusの2012年の発表では「外国語を母語とする人がいなければフィンランドの15歳以下の人の数は120年ぶりに最も低い状態」であるとされており、この20年間で、外国語を母語とする母親が子供を生んでいなければ、子供の数は現状よりも5万人少ないことになるとのことです。
Helsingin Uutisetによればフィンランドで2007年から2011年の間のフィンランド人の女性の出生率は1.84、外国人系の人は2.09。この4年間フィンランドで生まれたすべての子供のうちの7.1%は外国系の人が生んだとのことです。
もちろん、移民の数が全人口の5%といわれる(以前行ったプレゼンでTilastokeskusから引用した数字だけど出典ページ失念)なかで、移民系の出生率が2を超えていたところでそれが出生率全体に与える影響は微々たるものでしょうが、小数点以下が大きな違いを生む出生率に与える影響は無視できないものです。
そもそも国にとっての出生率の重要性は、その国の人口(ひいては納税者、労働者)に直接関わるものであるからでしょう。では人口の面でフィンランドを見てみるとどうでしょうか?
年々出生率が下がっていく中で、wikipediaによればフィンランドの人口そのものは毎年増加しています(ただし、増加率は年々下がっている)。
2014年では、フィンランドの人口増加の76%は移民によるものだということです*。2013年にはこの人口増加の90%が外国語を母語とする人によるものだとの統計もあります。
つまり、人口こそ移民のおかげで維持できているものの、移民が居てもフィンランドの出生率が減っているわけです。
生活や情勢が不安定な時には出生率が高く、生活も社会も安定した状態では出生率が低くなるとよく言われます。事実、統計局によれば人口の増加は第2次世界大戦後がピークで、一番多かったのは1945年9月、この月だけで1万2000人の子供が生まれたとのことです。ハフィントンポストの記事によればネウボラが法制化されたのは1944年ですが、日本を含む多くの国々で戦後ベビーブームが起きたことを考えると、これまたハフィントンポストのいうところのネウボラが「出生率を伸ばした」根拠にはなりません。同様に、現在生活や政治が安定している先進国はどこも出生率が低くなっています。
そう考えると日本もフィンランドも出生率が下がり、少子化になるのは当然なことではあります。
そんななかで人口を維持するために日本ができることは何でしょうか?
それは出産をしやすく、子育てをしやすい環境の整備でしょう。そのためにはフィンランドのネウボラを参考にするのも重要でしょう。しかしフィンランドの例が示すようにそれは出産率による人口減少(出生率が2以下)の歯止めにはなっていません。これまで出産/子育て環境の整備をおざなりにしていた日本が今の人口を維持したいのであれば移民の受け入れも積極的に考えるべきでしょう。(もう一つの考えとしては、わざと生活や情勢を不安定にすることでしょうか。たとえば戦争とかね!)
フィンランド人のペトラさんに尋ねてみたところ、日本で出生率を上げるために日本は:
仕事を出産にやさしい環境にしなければいけない。男女ともに産休が取りやすい環境が必要だし、産休に対する態度が変わらないといけない。会社にとって産休は高くつくから、そこには国の支援もないといけない。父親も同じく産休や育休を取るようになれば、会社にとって男性を雇うのも女性を雇うのも差がなくなるから、就職での男女差別も少なくなる。また、日本は教育の値段が高く、子供が欲しくてもお金がたくさんかかるのも問題だ。
と指摘。ネウボラに関してはそもそも出生率を伸ばすためのものではなく
階級社会の差をなくし、女性の就職する機会、家族の中の幸せ、平等な社会を維持するためのものだと思うし、そもそものポイントは、子供の死亡率を下げるためにできたもの。
だとも語られていました。ネウボラは出産~学校に上がるまでは子育てに対する手厚いサービスを提供してくれていますが、子供がある程度の年齢になればそれ以降は同様の存在がないために、学校の問題は学校で、医療問題は病院で、といった具合に、ある意味では日本と同じような環境になるとの話も。
つまり日本では様々なメディアを通じて「フィンランドのネウボラ」がまるで救世主であるかのように語られていますが、本当に必要なのは制度の導入以前に人々の出産と育児に対する考え方と態度の変化だということです。
*フィンランドの人口は2014年末で547万4289人であり、同年増加した人口は2万3020人だという統計がpdfで出ています。2014年にフィンランドに移住した人は3万1950人であり、フィンランドから他国へ移住した人は1万4410人、この1万7540人の入移民超過数(国へと移住してきた人の数から、他国へと移住した人の数を引いたもの)がこの年の人口増加の76%を占めているそう。
蛇足になりますが、Lestadiolaisuusというルーテル教の一派(避妊をしない、お酒も飲まない、テレビを見ない、などの特徴がある)の多いポフヤンマー県(Pohjanmaa)地域に限るとその出生率は2.32、ヘルシンキに限れば日本の出生率より低い1.34です。
また、最近出産された友達によると、(少なくともヘルシンキの)ネウボラでは、出産後に1度、家までネウボラおばさんが来てくれるサービスも始まったそう。実際のところどうかはわかりませんが、もしかしたらネウボラ側が子供の生活環境を確認する意味合いもあるのではと推測されていました。
(abcxyz)
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