「オレ、超有名なんだ。キミが建築費を出してくれたらいい美術館を建ててあげよう。あ、でも維持費も君が払ってね。オレ、有名だからきっと人がたくさん来てお金を落としてくれるよ。あ、もちろんキミにはライセンス料を払ってもらうよ。(ま、美術館が失敗しても借金を背負うのはオレじゃなくてオマエだけどな!)ハハハ!」
そんなあくどい詐欺にしか思えないのが世界に名高い美術館チェーン、グッゲンハイムです。もちろんフィンランドの首都ヘルシンキ市にもその魔の手は伸びています。
グッゲンハイム・ヘルシンキ計画、その1
まずは2011年にソロモン・R・グッゲンハイム財団がヘルシンキに作る計画を提出するも、(まだ正気だった/ロビイストによる影響を受けていなかった)ヘルシンキ市議会の投票により2012年に計画は却下されます。
バカげたことにこの美術館は、建設費用である1億30から1億40万ユーロ(156~168億円)を、ヘルシンキ市とフィンランドの国の予算負担で建てさせようというアイデアでした。
し・か・も、美術館の維持には年間1440万ユーロかかるにも関わらず、年間入館料見積もりは450万ユーロ(入場者53万人の見積もり)。そしてこの年間維持費のうち6.8mはフィンランド側に負担を求めるというものでした。なお、年間維持費用の面ではヘルシンキ市立美術館(Helsinki Art Museum、Tennispalatsiにあります。今は草間彌生の展示をやってます)は年間430万ユーロしかかかっていません。
更に、グッゲンハイムはライセンス料として年間2340万ユーロを取るというんだから、でかく出たものです。
これはヘルシンキ市議会代表の15人による投票が高いコストを理由に8対7で否決。
グッゲンハイム・ヘルシンキ計画、その2
今度は2013年にグッゲンハイム側が2番めの案として、「モダン&現代アートのフォームというコンテキストでの北欧とインターナショナルな建築とデザイン」に焦点を当てたものとする、ライセンス料は個人出資者たちが払う、入場者見積もりは55万人に増加、などとした案を提出。
今度はヘルシンキ市議会の代表がこれを通し、建築予定地を確保。
ご存じの方もおられるかもしれませんが、美術館の建築に関しては国際コンペが開かれ、フランス-日本の建築事務所Moreau Kusunoki Architectesによる案が通りました。この建築コスト見積もりは1億3000万ユーロでした。
なお、フィンランド美術博物館に関する法律があり、美術館には国から毎年予算を出さないといけません。
それに関して、Perussuomalaiset / 真のフィンランド人党の党首であり外務大臣のTimo Soiniが「Guggenheimiin ei tule valtion rahaa」、「グッゲンハイムには(国から)お金は出ません」と発言。これをラップ化した動画も作られちゃっていますのでまずはどうぞ(笑)。
結局はこの2番めの案は、国としてはグッゲンハイムへのお金は出さないということになりボツになります。でももしグッゲンハイムが作られるのであれば、それには美術館支援金は出すということになったようです。2016年に10月には、Suomen Keskusta / フィンランド中央党(独裁国家に武器輸出をし始めた党)の党首で(税金逃れをしている)総理大臣のJuha Sipiläが「国はこれに参加しません」と宣言(つまり、やりたいならヘルシンキ市がやれよ、ということ)しています。
グッゲンハイム・ヘルシンキ計画、その3
そして2016年11月、諦めきれないグッゲンハイム財団の3番目の計画。建設費用1億3000ユーロに対し、ヘルシンキ市は8000万ユーロを出す、グッゲンハイムは1500万ユーロを出すという、算数ができれば誰でも「あれれ?数あってないんじゃない?」という自体に。今回は維持費1160万ユーロに対して入館料が1120万ユーロと都合のいい数字になっています。入場者数見積もりは55万人のままですが、入場券を13ユーロから15ユーロに上げたのです。ヘルシンキ近代美術館Kiasmaの入場料は12ユーロ。しかし15ユーロというのは流石に物価の高いフィンランドでも高すぎますし、芸術好きのフィンランド人に言わせても「高すぎる」とのこと。それでいて入場者見積もりは据え置きなんて、適当すぎないでしょうか。
維持費と入館料も数字がマイナスになっていますが、先の美術館博物館に関する補助金をグッゲンハイムにも適応しないといけないのであれば、国が130万ユーロ出さないと行けません。マイナスになるのも、この国からの美術館用補助金が出ることを計算した上です。
そして先のティモ・ソイニの発言に対してはKokoomus/国民連合党の文化大臣Sanni Grahn-Laasonen文部大臣(教育を「節約」しながら「フィンランドは教育に投資します」と宣言するトンデモない人物)が11月に「ティモ・ソイニと
Pers党がそれを決めるわけではありません、文化大臣が決定する事項です。」と反論しており、これもまたラップ化されています。
さて、そんな3番目の案に関してですが、ヘルシンキ議会の代表15人による8対7で賛成となりました。これは今度11月30日にヘルシンキ市の議員全員である85人による全員での選挙で賛成多数を通れば認可されます。
しかし市民からの反対意見が多いので、今までグッゲンハイム賛成派だった政治家たちも来年行われる自治体選挙(フィンランド全国の自治体で行われる市議会議員を選ぶ選挙)で落ちることが怖くて今ではグッゲンハイム計画反対に回るのではと見られています。
みんなバカげてると思ってる
調査によれば、ヘルシンキ市民の75%、ヴァンター市民の82%はグッゲンハイムの計画に反対しています。また、フィンランドのアーティストたちからは、地元のアーティストには目が向かず、海外のアーティストの作品ばかりが展示されるのではないか。フィンランドのアートの世界はグッゲンハイムから得るものはあるのか?という疑問も出ています。
フィンランドの風刺サイトKasper Diemでは「アメリカのコーヒーチェーン、スターバックスは新たに財団を設立。スターバックスのあるヘルシンキ市からライセンス料として年間1.3mを要求。ハードロックカフェ、バーガーキング、サブウェイも同じことを検討中」という冗談を載せています。
TTKK at English Wikipedia
こちらはTTKKによる写真。Hakaniemiにあるグラフィティで、英語で(意訳すれば)「グッゲンハイムなんてクソ食らえ、私たちには壁がある」と書かれたもの。
私のフィンランドのアーティストの知り合いも「世界中で失敗しているアメリカのチェーン店美術館はヘルシンキに必要ではない」、「文化はグッゲンハイムのように外から買うものではなく、人とのふれあいで生まれるもの」などとしています。
そもそも成功していないグッゲンハイム
唯一その成功が知られているグッゲンハイムはスペインのビルバオにあります。ビルバオは元々経済的に貧しく、誰も知らないところでした。そこでは少なくともグッゲンハイムのおかげで名が知れて人も来て有名になり(地元のアーティストからは反対されているようですが)Win-Winな関係が気づけたのかも、しれません…
でもヘルシンキへの観光客数は増加しているので、「観光名所」として血税を多く費やす必要のあるグッゲンハイムをわざわざ作る意味は無いでしょう。でもグッゲンハイムの最初の案や甘すぎる支出と入場料の計算からも分かる通り、そもそもグッゲンハイムは持続性を考えていないのでしょう。
第一、世界中のグッゲンハイム美術館の中には閉鎖していないものの方が少ないんです。今も建っているのは3つ。対してラスベガス(アメリカ)、ニューヨーク(には2つあったが一つ閉鎖アメリカ)、グアダラハラ(メキシコ)、ベルリン(ドイツ)にあったものはすべて閉鎖されていますし、ヴィリニュス(リトアニア)では汚職スキャンダルで中止になっており、リトアニアで失敗後にヘルシンキが狙われているわけです。来年はグッゲンハイムがアブダビ(アラブ首長国連邦)にできるようで、現在建造中。でもアブダビでも100人以上のアーティストがオープニングをボイコットしています。
良く言っても血税を使いすぎて後に負の遺産としての箱物だけが残るお祭り騒ぎのアートイベント。成功すらしていない詐欺まがいのWin-Lose(グッゲンハイムは損をしないが美術館を招く都市/国は損をする)計画でよくまあここまでたくさんの都市に立てては潰してきたなぁと思いますね。
Top image by Ari Wiseman
image by TTKK at English Wikipedia
Referrence: HS, Wikipedia, Wikipedia, Wikipedia, Kasper Diem, YouTube, YouTube
(abcxyz)