2018年5月29日火曜日

まさかのフィンランド語に観客もびっくり!映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』に出てくるフィンランド語


フィンランドで公開中の『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』にはフィンランドの俳優だけではなく、フィンランド語の言葉まで出てきました。スター・ウォーズシリーズとフィンランドの関係にも少し触れてから、フィンランドの観客もびっくりのその言葉をご紹介しましょう。(映画のストーリーのネタバレでは無いのですが、登場するシーンや文脈はあえて伏せて書いています)

スター・ウォーズシリーズとフィンランド


映画『スター・ウォーズ』シリーズには意外と知られていないフィンランドとの繋がりがあるんです。1977年に公開されたシリーズ最初の作品『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』では、最後の最後のヒーローたちにメダルを渡すシーンでレイア姫が身につけている首飾りは、実はフィンランドのLapponiaというブランドのもの。以前はこのブランドの販売店に該当シーンの写真が飾ってあったりもしました。(なおその次の作品である『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』に登場する氷の惑星ホスは、フィンランドではなく、隣国ノルウェーで撮影されている)

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では当時「なんとなくそれっぽく聞こえる外国語」を話すことで人気となったフィンランドのYouTuber、「SAARA」ことSara Forsberg(サラ・フォースバーグ)が作中に登場するエイリアン言語をつくっています。

映画『ハン・ソロ』とフィンランド


また『フォースの覚醒』では、初作からこれまでピーター・メイヒューが演じてきたチューバッカ役をフィンランド出身のバスケット選手Joonas Suotamo(ヨーナス・スオタモ)が演じています。続く『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でもメイヒューとスオタモが二人でチューバッカ役を演じてきましたが、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では初めてスオタモだけでチューバッカ役に挑戦。

『ハン・ソロ』のエンドロールでは、主役のハン・ソロを演じたオールデン・エアエンライクに次ぎ、二番目にフィンランド人の名前がスクリーンにデカデカと映し出されたことでフィンランドの観客たちも誇らしげな様子でした。

そしてもう一つ、『ハン・ソロ』でフィンランドの観客たちが驚きの声を上げたシーンがありました。それは、なんと作中にフィンランド語の言葉が出てきたこと!それが「Teräskäsi」です。

「Teräskäsi」!?!?


フィンランド語で「鋼」を意味する「teräs」と、「手/腕」を意味する「käsi」でできた「鋼の腕」という言葉なのですが、実はこれ、コアなスター・ウォーズファンや、コアなゲーマーなら知っているあるゲームから来ているんです。

それは日本でも発売された『スター・ウォーズ マスターズ オブ テラス・カシ』(Star Wars: Masters of Teräs Käsi)。初代PlayStation用の格闘ゲームなんです。



作品は「テラス・カシ」という格闘技のマスターであるアルデン・リンが、銀河皇帝の命を受け反乱軍メンバーを暗殺しようとしているので立ち向かう…というもの。ライトセーバーやブラスターが出てくるとんでもない格闘ゲームなのですが、ゲームとしても面白くありません(笑)。そもそもなぜこのゲームにフィンランド語のタイトルがついたのかは私は残念ながら知りません。

なお、「teräs」に「男」を意味する「mies」をつけて「Teräsmies」とすると…なんと鋼の男(Man of Steel)『スーパーマン』となるんです。ではスター・ウォーズフランチャイズと共にディズニー傘下のマーベル・コミックの『アイアンマン』(英語だとIron Man、「Iron」は「鉄」)は直訳すると「Rautamies」となります。ちなみに「鉄道」だと同じ論理で「rauta」と「道」という意味の「tie」を合わせて「rautatie」。

こんなスター・ウォーズ世界の黒歴史となった作品のタイトルが再度登場するのはシリーズファンへのサービスとして自分は楽しめましたし、フィンランドの観客も唐突にスター・ウォーズの世界でフィンランド語が登場し(フィンランド語字幕でも「Teräskäsi」となっていた)て嬉しい驚きだったことでしょう。



Video: Star Wars: Masters of Teras Kasi - Arcade Mode Luke Skywalker Playthrough PS1 (No Commentary), YouTube - Livershot187

(abcxyz)

2018年5月27日日曜日

なぜだかフィンランドの左翼党が『新世紀エヴァンゲリオン』OP風に…「新世紀左翼同盟」!



フィンランドではこれまでにもフィンランドの大統領選挙地方選挙が「日本アニメ風」になった動画が作られてきましたが、今度は『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニング風にフィンランドの「左翼同盟」(Vasemmistoliitto)のメンツを映し出した「Neon Genesis Vasemmisto」(新世紀左翼同盟)という動画が作られてちょっとした話題になっています。



この動画をFacebookページに掲載しているのは「勝利2019」という意味の名がついた「Voitto 2019」。「Voitto 2019」のFacebookページによれば、このグループは左翼が選挙に勝ち、緑と赤の政府になることを目指す活動を行う、という団体とのことで、2019年の国会選挙での2党の勝利を応援したいようです。

現在の前の政府は6政党が構成されていたためレインボー政府という呼び名でした。Voitto 2019の述べる「緑と赤」は、「緑の同盟」(Vihreä liitto)と赤色で代表される「左翼同盟」による連立政権が望ましいとしているわけです。与党の価値観が違う場合党が途中で抜けてしまうこともあり(レインボー政権では左翼党が途中で離脱した)緑の党と左翼党の価値観が似ているためスムーズな政治が行われるであろうことから。

2019年の選挙がどうなるかは判りませんが、なぜだか近年はフィンランドの政治と日本アニメの関連性が面白いことになっているようですね。


Image: Facebook

Source: Facebook

(abcxyz)

2018年5月9日水曜日

ヘルシンキを舞台にした台詞のない世紀末コミック『D'Moleyk – The Mole Age』レビュー+作者Miha Rinne氏からの日本の読者へのメッセージ


以前ご紹介したフィンランドのコミックアーティストMiha Rinne(ミハ・リンネ)さんのヘルシンキを舞台にした最新コミック『D'Moleyk – The Mole Age』、覚えておられますでしょうか?今回コミックをレビュー用に提供頂いたのでご紹介させて頂きます。

ただし、肝心の内容に関してはネタバレを避けるため多くは語らずにおきましょう。とは言え、何も語らないわけにはレビューにも紹介にもなりません。なるべくこれからコミックを読もうという方の体験を損なわないように解説したいと思います。

大判で120ページもあるこの作品(トップ写真では大きさ比較のためイッタラのAino Aaltoグラス22 clと2ユーロコインも並べています)、人類滅亡の危機に瀕した世界状態で若い女性と謎の生き物を追うというのが大まかな流れ。私は読んだ後に、一体これは何だったのか、作中で起きた出来事について考えを巡らし、もう一度最初から読み直し、作品の象徴性について考えたりして楽しめました。



(ヘルシンキ中央駅を背景にソコス、3人の鍛冶屋、そしてストックマン…この後主人公たちはストックマンの中に向かうのですがそこで待ち受けるのは…)

文字情報は非常に限定的で、ストーリーに関連して明確な言語を伴う部分は2カ所しかありませんでした。絵により物語を進ませ、言葉を超えた感情への訴えかけをする、そんな言語を欠いた作品ですが、日常を超越した謎の出来事に対して明確な回答は用意されておらず、描かれていない部分を読者が想像により補完する余裕が残されている作品とも言えるでしょう。ある意味人知を超えた現象に見舞われる主人公たちの起きていることを自分なりに理解するには数回読み直したり、他の人にも読んでもらってどういう読み取りをしたのか対話したりすると更に楽しめるはずです。

ただし注意として、血なまぐさい話の苦手な方にはおすすめはしがたいです。逆に人類滅亡系やSFが好きな方にはおすすめしたい作品です。

コミックとしては、現実の場所が舞台になっているのも見所の一つ。ストーリー前半はエスポーのKera(ケラ)という地域がモデルになっているほか、ヘルシンキ中央駅やストックマン周辺、内部、そして知る人ぞ知るヘルシンキ地下のメンテナンス空間(有事にはフィンランド国防軍の移動に用いられる)、S-marketの倉庫やHaartman病院などの実在の場所も実際の場所取材して写真を元に描かれているのです。


(なおこのページに出てくる腕時計はRinneさんが1987年に購入した日本のリコーのクオーツ時計がモデルになっているとのこと!この車両や軍隊の未来的なヘルメットも実際にフィンランド国防軍が現在採用しているもの。)


Rinneさんが20年の年月を費やして完成させた大作。何を読者に伝えたいのか、何故この作品を作らないといけないのか、と言う疑問は長年考えていたそう。その答えは、読者に感情を届けたいというもの。その感情とは、恐怖、不安、悲しみ、絶望、など…しかしそれを強く読者に感じさせることにより、その先に存在するのがカタルシスであるようにしたかった、とRinneさんは教えてくれました。すなわち、ギリシャ悲劇のように、悲劇を通じて観客の心が浄化され、ポジティブな感情が沸き起こる作品にしたかったのです。また、それぞれのページには色がついており、それが観客に与える感情を深める要素として使われています。

Rinneさんから日本の読者へのメッセージも頂いていますのでご紹介します。

I am aware that japan has massive comic book industry on their own, so while I really would like to gain lots of japanese readers, I am also a realist, thus I have very little hope of reaching the attention of any japanese reader. For anyone over there who might be interested enough to order my book, I am deeply grateful! Thank you so much! I hope the book has enough layers and details to keep readers interested, and I hope the reverse reading direction is not a big issue.

意訳:日本には独自の巨大なコミック業界があることを知っているので、日本にも多くの読者を得たいと思うと同時に、現実主義者な私からすれば、日本の読者から注目を浴びる事に関しては望みが薄いとも思っています。はるばる日本から私のコミックを注文してくれるほど興味を持ってくださる方がおられたら深く感謝しています!どうもありがとうございます!このコミックに読者の興味を放さないだけの十分な深みとディテールがあればと思います、また、(日本のコミックとは)逆方向に読み進めることも問題ではないことを願っています。

購入はフィンランド最大のコミックストア、Turun Sarjakuva Kauppaから可能。日本へも発送してくれます。


Image courtesy of Miha Rinne

(abcxyz)