2016年5月31日火曜日

そのとき歴史が動いた:フィンランド、ソ連、ケッコネン。いちばん有名な「Hyvä veli」話

いちばん有名な「Hyvä veli」の例はソ連時代60年代の話。当時のフィンランドの大統領Urho Kekkonenは、大統領選が近づき再当選したかったものの、Kekkonenの相手の方が勝機がありそうな状況でした。

フィンランドはロシアとYYA契約(ソ連とフィンランドの間の安全保障条約みたいなもので「友情、協力、相互援助」の合意)を結んでおり、ソ連の敵国を手伝ってはいけないという状況でした。当時の西ドイツはソ連の敵であり、その当時バルト海で西ドイツの軍隊活動が急に活発化していました。

Kekkonenがハワイに行っていたときに、ソ連から急にモスクワのフィンランド大使にフィンランドに向けたメッセージが届きます。その内容は、「西ドイツの軍隊活動についてフィンランドの軍隊と話がしたい」というもの。フィンランドとしては中立の立場をとりたいために軍隊をこのことに巻き込みたくなく、Kekkonenは軍隊と相談せずにどうにかできないかとソ連に尋ねます。それに対してソ連は「フィンランドの今の外務政治家たち(大統領であるKekkonenと、Kekkonen側であった外務大臣)を信頼している」などというやり取りがあったそう。

結局皆がソ連を恐れ、Kekkonenの相手の大統領候補が途中で大統領戦を降りたためにKekkonenが当選。

その後、Kekkonenはソ連の人に会った時に「メッセージは私のためになりました」、「計画はうまくいっていました」などとあいまいなことを言っていたそう。

Kekkonenは、ビールや家具の絵柄にもなったりと、ある意味現代ではキャラクター化されてもいますが、結局Kekkonenは32年間も大統領でおり、今でもフィンランドでは「彼のせいでソ連とうまくいった」という声も、「彼は最悪の独裁政治家」という声も聴かれます。ちなみにこれを受けて今のフィンランドでは12年(2回選出)より長い間大統領の座に居座ることができなくなっています。

Kekkonenはソ連のトップの人たちと仲が良く、一緒にサウナに行ったりスキーに行ったりしていた=Hyvä veliだったため、説としては「Kekkonenがソ連にメッセージを送るよう頼んだ」という説が今でも一番信じられています。


(abcxyz)

2016年5月17日火曜日

連載・さらば教育立国 好調な日芬関係を無視した節約でアアルト大学の日本語教育も終焉か

これまでは何度ヘルシンキ大学の「節約」を紹介してきましたが、今度はアアルト大学(Aalto yliopisto)の「節約」を紹介しましょう。

フィンランドの有名な建築家 Alvar Aaltoの名を冠したアアルト大学では、現在居る日本語の教授が退職後、新たに日本語の教授を雇わないことに決定しました。

アアルト大学では日本語は、英語、ドイツ語に次いで3番目に人気の外国語だそうです。

もともとヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ経済大学、ヘルシンキ工業デザイン大学が合併してできたのが「アアルト大学」で、日本との協力も盛ん。工業、ビジネス、デザインの大学なので、将来のキャリアが日本とつながる学生も少なくありません。

アアルト大学はこれからも学生は日本語を勉強することはできるとしています。しかしこれはほかの大学を通じて、ということなんです。例えば、ヘルシンキ大学の外国語センターで。外国語センターでは学生の専攻を問わず言語を学ぶことができます。

ヘルシンキ大学は、アアルト大学の学生がここで日本語を学ぶのもかまわないが、ヘルシンキ大学でも日本語は人気があり、ヘルシンキ大学の学生を優先するから学びたくても学べないようになるかも…と考えているよう。

しかも、ヘルシンキ大学の外国語センターでは、日本語は中級までしか学べません。日本語の上級コースは、より専門性の高い日本語学科でのみ学べるようになっています。アアルトの外国語センターでは上級日本語まで勉強可能でした。

フィンランド国会の日本友好協会の社会民主党(sd)Ville Skinnari国会議員は今回のアアルト大学の決断を「非常にばかげたことだ」と述べています。

それもそのはず、フィンランドと日本との留学プログラムも増えているし、日本とフィンランドとをつなぐ直行便も増えています。アジアからの投資では日本からのものが最大だし、日本への輸出も昨年10億ユーロ(約1.25兆円)を上回り、ビジネス関係もますます好調なところ。しかしビジネスをするには上級日本語が必要とも言われています。

木以外にほとんど資源もなく、代わりに教育に力を入れ、「脳力」をその力として活躍してきたフィンランド。しかし今の政権はそれを理解せず、目先の支出削減だけを見て教育の投資性を無視し、しかも酷いことに公約も無視して教育からも予算を節約。そしてその「節約」政治を受けて、現時点での重要性も、未来性も持ち合わせている日本との関係協力を弱めるような今回のアアルト大学の決断も理解に苦しむところです。


[via Helsingin Sanomat]

(abcxyz)

2016年5月13日金曜日

フィンランドで菜食主義の人に会ったら言ってはいけないこと

「肉も食べなよ」、「好き嫌いするなよ」

フィンランドでベジタリアン(kasvissyöjä)やヴィーガン(Vegaani)の人に会っても、そんなことを言ってはいけません。理由を聞けば喜んで答えてくれる人もいるでしょうが、あなたの持つ価値観で相手の価値観を判断したり、価値観を押し付けてはいけません。これはフィンランドだからではなく、どの国のどんな価値観の人に会っても同じことが言えるでしょう。

ヴィーガンとは完全菜食主義のことで、これは動物由来のものは食べないという主義。ベジタリアンはある意味広義の菜食主義でもあるが、肉を食べないという意味でも使われており、中には「魚は」、「卵は」、「牛乳は食べる」などの人もいます。フィンランドでは私の周りにベジタリアンもヴィーガンもどちらも普通に存在します。

日本での菜食主義の扱いやとらえられ方があまりにも偏っていると思うので書いておきましょう。日本では菜食主義に対して、「動物愛護」とか「健康のため」という、どちらかといえば「彼らは利己的な理由で菜食主義をしている」という見方や報道が多いように見受けられます。それらが事実である場合ももちろんあります。

しかし、フィンランドで私の周りに多く見られるのはなによりも「環境のため」の菜食主義という人たちです。

これがどういうことかというと、日本の高校の生物の教科書にも書いてある通り(少なくとも私の持っている東京書籍だったかの教科書には)、「ある量のコーンを人が食べれば100人分の食料となるが、同じ量を牛に食べさせて、その牛を人が食べると24人分にしかならない」(数値はうろ覚え)。つまり、肉食をするには多くの食料を必要とし、そのためには膨大なエネルギーが使われる、ということです。世界的に食糧が足りていない状況だといわれる中で、肉食という非効率な食生活を続けることは、人類にとって良くない、ということです。

でも、それは人間にだけ悪いわけではありません。上で述べた「エネルギー」には、家畜を育てるための施設の温度管理や(忘れられがちなことですが、季節外れの植物を育てるにも膨大なエネルギーがかかっていることも頭の片隅に入れるべきです)、食肉処理、運搬なども含まれます。そして人間に食べられるために育てられている動物は(そうでない我々人間も同じですが)温室効果ガスであるメタンガスを発生させます。もちろん動物の糞尿からメタンガスを集めて発電するなどをしているところもありますが、現在それをやっているところは限られているでしょう。

また、「健康のために菜食主義」といっても、大きく分けてふたつがあると思います。日本での報道が多いのは「食物繊維やビタミンなどが豊富で野菜が健康的」だから菜食というもの。でもよく忘れられているのは、「肉食の危険性」です。WHOが発表している通り(BBCの記事)、ソーセージやベーコンといった加工肉にはアスベストやアルコール、プルトニウムと同じレベルの発がんリスクがあり、赤肉もまた、加工肉に次いで発がんリスクが高いとされています。

そしてもう一つ重要なのは、人に食べられる家畜がどんな注射を受けているのかです。大きく育てるための成長ホルモン注射、病気にならないようにするための抗生物質。これらはそれを食べる人間にも影響があるわけです。

生物濃縮の問題もあります。環境内に存在する有害物質を植物が吸収し、それを動物が食べ、それを人間が食べる。この食物連鎖の過程で、有害物質の濃度は連鎖の上に行くにつれて濃くなります。環境ホルモン(内分泌攪乱物質)や重金属などといった有害物質が生物の体内に蓄積されていき、それを食べる人間の体の中へと入ることになるわけです。(これは魚の場合もまた肉食魚のほうが有害物質が多いということでもあります。)

以上の事柄以外にも、もちろん宗教的なことから肉食をしなかったり、文化的な背景から食べなかったり、アレルギーがあるなど、一概に草食主義といっても様々な理由が考えられます。冒頭で述べたような軽はずみな言葉はハラスメント、侮辱、ケンカを売っている、などとも捉えられかねません。もちろんあなた自身の価値観も尊敬されるべきでしょうが、相手である菜食主義の価値観への理解をも示し、互いに尊重しながら生きていきましょう。


(abcxyz)

2016年5月12日木曜日

連載・さらば福祉国家 「Hyvä veli」ようこそ汚職国家フィンランドへ

Transparency.orgの発表する世界汚職度指数では、2015年には168か国中2番目に汚職度の低い「キレイな」国とされているフィンランドですが、クリーンなイメージは上っ面だけかもしれません。

前回の政府の途中から福祉健康担当大臣であり、今日までヘルシンキ市の福祉健康担当副市長Laura Ra:ty(Kansallinen kokoomus / 国民連合党)だった人が急に辞職。そして複数の私立病院チェーンを所有する巨大企業Terveystaloの代表取締役に就任することを今日発表しました。Terveystaloはフィンランドのたくさんの会社と労働者への健康サービスの提供契約を結んでいる民間企業。

今のフィンランドの医療システムはよくない、というのはどの政党も合意しているところで、前々回の政府の時からこれを変えようという動きが続いていました。現在のSipilä政権は医療も民間化しようとしています。こうすることで競争が生まれて医療サービスの質が高まるのではないか、ということです。

しかし、だからこそ民間化にかかわる政治家が医療企業に急に転職するのは異常なのです。つまり、政府の中で福祉健康を担当して、後で自分がつく役職を自分に都合いい状況に変えていから転職したというわけ。まだ公になっていない情報も持っていることでしょう。これが汚職でないとすれば一体なんだというのでしょうか?

しかもKokoomusはなんと去年も似たようなことがありました。ヘルシンキ市のKokoomus委員会の委員長であったLasse Männistöが途中で自ら辞職、Mehiläinen(これもやっぱりTerveystaloのように巨大で似たような医療系の民間企業です。税金回避の疑いも取り上げられている)に就職したのです。



フィンランドには「Hyvä veli」(良い兄弟)という言葉があります。これはいわゆる「コネ」であり、学歴や経験が重視される、と言われるフィンランドでも、実は一番就職その他、またクビにならないためにも重要な要素がこれです。大学で知り合った友達や後輩をどこかに紹介して雇ってもらうようなものもこれに含まれるのですが、会社の中で仕事の後に飲みに行ったりサウナに行ったりして仲のよくなった人たちの間で、実績などを見ることなしに仲のいい人を昇格させたり、小さな自治体で、友達が持っている経済的に損失を出している工場を自治体が買い取ったり、なども「Hyvä veli」の例として挙げられます。ただし、昔はあったようではありますが、今の時代は大学にHyvä veliで裏口入学をするなどはできないようです。



企業間でのこういった転職では、辞職後に同じ業界の他の企業に入る場合には何か月か時間を空けてからでないと入れないという仕組みがありますが、今回の件を受けてこの仕組みが今回のようなケースにも当てはめられるべきだという声も上がっています。


[via Helsingin Sanomat]

(abcxyz)

2016年5月1日日曜日

連載・さらば福祉国家 ヘルシンキ大学でクビにならないために必要なのは実績よりも「政治や家族」の力

ヘルシンキ大学でクビを宣告された生物学のHeikki Hänninen教授が、なぜ自分がクビになったのかといろんなところに聞いてみた。その人は皆から好まれているようだし、彼のおかげでお金も入ってきているそう。環境学科長は、学部トップの話し合いの中でこういう話が出てきたと:「あなたより成功していないけれども、政治/家族・親戚的な力がある人をクビにすることができず、あなたをクビにしました」と。教授としての実績は低くても、力のある家族を持つ教授はクビにならなかった。学生が困るとか大学が困るのではなく、クビにしても大学のトップが一番困らない選択がなされたとのことだ。

だがこの人は中国の大学からすぐに働かないかとお声がかかったそう。

ヘルシンキ大学からクビになったのは合計570人。それでもその多くは事務職で、クビになる教授は総数からするとだいぶ少ないようだ。ヘルシンキ大学の学生が言うには、スウェーデン語学科の成績を登録する職員がクビになり、学生たちが困ったりなどの混乱が生じているようだ。

なおここまで酷いやり方で「節約」して批判されているのはフィンランドの中でもヘルシンキ大学くらいなもの。トゥルク大学はあまり使われていない建物を売却するなどして、「節約政治」に対処しているし、他の大学でも退職した人の後に新規に雇わないことなど、より人間的な方法で節約している。

*ヘルシンキ大学全職員は8000人ほど、うち4000人ほどが教員だそうだ。学生数は1万9000人。2012年における数値。


[via HS]

(abcxyz)