2016年12月2日金曜日

詐欺まがいのヘルシンキ・グッゲンハイム計画は否決。もう世界のどこにもグッゲンハイムは建ちません(最初からそうしろよ)。



こちらの画像はヘルシンキ議会での投票数日前から街中に出没したグッゲンハイムの看板。「なんと美しい。美術館でダメにするなんて」と、現在は駐車場となっている建設予定地を皮肉った広告です。バス停などに出ているこの広告、かなりお金がかかるのにここにこんな広告を出すとは、よっぽど利益が見込めると見ていたのでしょうか。これから投票するという時にこんな広告を出すとはヘルシンキ市民も「まさかここまでやるか…」と感じていたよう。

そんな中、昨晩11月30日夜、ヘルシンキ議会の会議で三度目のヘルシンキ・グッゲンハイム案に対する賛否投票が行われました。

結果は53対32票で否決。めでたく今回のグッゲンハイム案も没となりました。

しかしこの投票前に行われた討論のなかにも面白い意見があったので一部抜粋します。



・真のフィンランド人党の議員の一人、建設予定地の港を指し「港は港だ」

グッゲンハイムに反対、と同時に数年前から港(マーケット広場横)に建っているフィンエアーの観覧車「Finnair Sky Wheel」にも反対している。

・キリスト教民主党の議員一人「これは市民が必要としていないもの」

・左翼同盟Paavo Arhinmäki「人類は長年永久機関を作ろうとしてきたが、何度否決しても新たな案と共に戻ってくるこれはそれかもしれない」

・グッゲンハイム建設賛成派の国民連合党Lasse Männistö「こういう討論の仕方は嫌だ」(そういう議論じゃないだろ…)、すでに提出されている案に賛成か反対かを決める場なのに「こう変更すれば賛成してはいいのでは」と改案を出そうとする

それじゃあ今からやる投票の意味が無いだろこれ、なにを言っているんだ…途中で勝手にグッゲンハイムが承認しない形に計画を変更してこの案を押し通すというのも変なので、もしかしたらグッゲンハイム側からMännistöが何らかの特別な話を持ちかけられているのかも?

・フィンランド社会民主党Pentti Arajärvi(前大統領タルヤ・ハロネンのご主人)勝手にいきなりこの場で物事を変えようとするMännistöに対し「行政のやり方に違反している」

・国民連合党Terhi Koulumies「我々の党のWille Rydman*と同じく反対」

(*ちなみにRydmanは人種差別主義者的発言で知られる)

・フィンランド中央党Laaninen Timo「そもそも賛成してたのにLasseが今言ったことでわからなくなった」

そもそも賛成派だった人だが、賛成派のMännistöの先の発言で心変わりか。

・緑の党議員の一人「最悪の最悪の最悪の場合*、何が起こるというのでしょうか?」「最初の年は数万人、次の年は1万人しか来なくても、私たちには素敵な建築が残る」

*この部分だけ英語で「Worst worst worst case scenario」
とても熱意のこもった演説。じゃあグッゲンハイムにお金出さずに素敵な建築立てればいいんじゃ…

・左翼同盟Vuorjoki Anna「中身を決める財団委員会はヘルシンキ市から一人の代表、グッゲンハイムからは3人の代表、自分の市の美術館に影響できなくなる。市民をもっと参加させるという方針の真逆だ」

・社会民主党Anttila Maija「ヘルシンキにひとつ国際的な美術館があってもいいと思う」

・社会民主党Sevander Tomi「グッゲンハイムは美術館建設費を払うお金があると言っているが、実際には資本がなく、多くの会社や財団から借金を建てることになっている」

・左翼同盟Vuorjoki Anna(唯一成功しているグッゲンハイム)である「ビルバオのものでさえ現地アーティストにほぼ利益がなかった。ようやく近年になって現地アーティストの作品を買いだした」

・共産党Hakanen Yrjö数々の閉鎖や計画失敗しているグッゲンハイムの例を挙げるも「もし自分で支払うならヘルシンキ市が安く敷地提供する、というならいい」

・真のフィンランド人党Hyttinen Nuutti「海外に行ったら現地料理を食べるか、それともマクドナルドに行くか。フィンランドに海外から来たら現地の美術館に行きたいか、アメリカのフランチャイズ美術館に行きたいか、考えてください。」



そしてこちらが誰がどちらに投じたのかを示す画像です。




image by © Helsingin kaupunki

「JAA」が建設賛成派、「EI」が反対派議員です。ご覧の通り、賛成派の多くは(KOK)国民連合党と(VIHR)緑の同盟の議員となっています(各政党の日本語/フィンランド語表記はこちらで)。多くの反対派議員は、そもそもグッゲンハイムが詳細を明らかにしないままに計画を進めていたことに疑問を呈していました。



Helsingin Sanomatによれば、グッゲンハイム財団のRichard Armstrongはヘルシンキ・グッゲンハイム案が否決されたことに関連してこんなコメントをしています。

反アメリカ的、反帝国主義なレトリックがあったとは存じています。私は反ユダヤ主義についてはほとんど無かったと聞いています。

まるでもっと反ユダヤ主義的なコメントがあってほしかったかのようにも聞こえます。グッゲンハイム建設反対に関しての論点は主に資金、海外のフランチャイズであること、そして現地のアーティストへの影響であり、「ユダヤ人」の「ユ」の字も出てきていません。少なくとも昨日のヘルシンキ議会討論を三分の一見ていた間にはそのような発言は一切出てきていませんし、フィンランドでそのような発言を聞くこともありません。

これはまるで「人種差別カード」*をちらつかせているかのよう。フィンランドは継続戦争当時、ロシア軍から国土を守るためにドイツ軍から武器を供給され、そのかわりにドイツ軍がラップランドまで戦いに来ていました。もしかしたらこれをして「フィンランド―ナチス・ドイツ=反ユダヤ主義」の構図を作ろうとしているのでしょうか。
*(実際の人種差別に対してかどうかは関係なく、「それ、人種差別だ」として自らを人種差別の被害者として相手を人種差別主義者だと非難し、事を自分に有利に動かするために使う切り札)

Richard Armstrongはこれまでにもインタビューの途中で「気に入らない」と部屋を出ようとし(て秘書に連れ戻され)たりと、その奇行でも知られる人物。

なお、Paavo Arhinmäkiの予想が外れて残念ではありますが、Armstrongによれば、もうヘルシンキにグッゲンハイムを建てる計画は出さないほか、もうほかの国にもグッゲンハイム美術館を建てる計画も無いようです。

新しい美術館がどんどん建っていますし、それらから要請があれば作品や展示を貸し出します。例として、中国には新たに大きな美術館地区ができますが、我々は美術館を建てるのではなく、その地域の活動者と協力します。今では多くのフィンランドの美術館と素晴らしい関係を築けていますから、より将来の協力関係もやりやすいでしょう。

などと話しています(多分来年完成予定のアブダビ・グッゲンハイムは除いての話でしょうが)。だったらそもそも適当に他国の血税で採算の取れない美術館建を建てさせるんじゃなくて最初からそうしろよ…とはいえ、この発言を鵜呑みにしているひとは少ないようで、グッゲンハイムはこれからも他国に美術館を建てようとするのではないかとの意見も聞こえます。

ヘルシンキのアーティストからは、「数年前からアート関連の補助金が少なくなっており、これまで出ていた補助金も出なくなった」という声や「文化振興したいならグッゲンハイムに回す額をヘルシンキのアートに回せばいいのに」という声もきかれていました。これまでグッゲンハイム賛成派だった議員は今後どういう政策方針で行くのかも見ものです。


top image by myself

[via Helsinki Kanava]

(abcxyz)



2016年12月1日木曜日

連載・さらば報道の自由度 国営メディアの口を黙らせた?スキャンダルまみれの首相

フィンランド最大の鉱害問題となっているTalvivaara鉱山(実際には山ではなく、露天掘り)。フィンランド最大のニッケル鉱山なのですが、2012年にその採掘に用いた有毒な水を溜めていたプールからニッケル、ウラニウムなど毒性の金属が含まれた水が川に流れてしまいます。2013年にもまた毒水が漏れ出たりして、結果として川のみでなく、地下水にまで浸透。非常に莫大な影響を環境に与えました。

これはTalvivaaran Kaivososakeyhtiöという会社の持っていた鉱山であったのですが、フィンランドはこの問題に対処するため国として資金を投じます。被害の規模は違いますが、日本で例えるならば、福島の原発の後始末に国がお金を出しているのと同じ形です。しかし結局Talvivaaran Kaivososakeyhtiö社は2014年に倒産。

2015年には国営企業TerrafameがTalvivaara社から鉱山を買い取り、採掘を続行。その後この鉱山は何度も野党から「閉鎖しろ」との声が上がりますが、潰れたTalvivaaran Kaivososakeyhtiöを
Suomen Keskusta / フィンランド中央党(独裁国家に武器輸出をし始めた党)の党首で(税金逃れをしている)総理大臣のJuha Sipiläは、鉱山から採掘できる鉱物の価格が国際的に上がっているなどとし、環境問題を直し、これからも採掘を続けようと国から巨額の出資を行います。



しかし、先週金曜YLEの報道がことを大きくします。Sipiläは鉱山まで行き、視察、社長らと面会。何か怪しいと勘ぐったメディアが調べ始めたのか、間もなく、営業している鉱山がSipiläの親戚、子供や叔父、従兄弟などが持つ会社Katera Steelから50万ユーロ(約6050万円)もの大きな契約を結んでいたことが明るみに出ました。

この契約は、 Sipilä政府がTerrafameを支援するために追加で1億ユーロ(約121億円)を投じた直後に結ばれたもので、もちろんSipiläもその決定に関わっています。

そもそも、何らかの決断を行う時に、決断が自分に利害関係のある会社などに関係したものであれば、自らが怪しまれないためにも(何もうらましいことがなくとも)決定権限を辞退するなりそれを証明する書類を出したりするべきです。

Sipiläは当然ながらなぜそうしなかったかと追求されており、国会の委員会もこれから調査に乗り出します。

しかしこれをYLEが報道した後、Sipiläはこれを自分への攻撃へと感じたようで、YLEの記者に午後11時以降20通もメールを送りつけています。その最後のものには「私のYLEに対する尊敬は現在ゼロです。もちろんあなたの私に対する尊敬も同じでしょう。これで対等ですね。」などと記されていました。

そして日曜。YLEの編集長が、すでにこの件に関する編集待ちの記事が存在したにもかかわらず、この件に関する報道はもうしないと決断。有名な政治トークショーA Studioでもこの件のためにSipiläも呼ばれていて、出演するはずだったにも関わらず、それもなしになってしまいます。

しかしSuomen Kuvalehti紙がこれを追求。月曜日の朝刊でYLEの記者たちからの匿名の情報提供を受けた記事を公開。YLEの記者は「多数のメールが総理からきたから中止になったんだと思う」(上記したメールが20通送られた件やその内容もこの時点で判明)。

次の日、YLE編集長は「国営メディアの役割は平等にバランス良く、重要性を考えて出すべき、重要性の割に生地を出しすぎていた。あまり攻めればYLEひとりでスキャンダルを作り上げていることになる」などと声明を発表。



この件に関する記事本数を減らすのと、この件を全く報じなくするのとでは全然違う話です。国営放送は、自国の政府や政治家をも批判できる独立性こそが重要です。そうでなければ某国のように政府の都合のいい話ばかり報道する国営放送になってしまいます。

Sipiläは後に記者会見で「YLEに対する信頼はまあ、OK」と発言しています。

フィンランドは世界の報道自由度ランキングでもトップであることでも有名、汚職度が世界的に低いことでも知られていますが、「Hyvä veli」文化のあるフィンランドで実際にこれを信じている人はどれだけいるのか怪しいもの

知り合いのフィンランド人は「昔から汚職だらけだということは知ってた」と言う人や「汚職にも色々な種類があるが、汚職がない国というのは言い過ぎ」と言う声も。なおこの問題はイギリス国営放送BBCも取り上げています


[via YLE, Wikipedia - Talvivaara Mining Company]

(abcxyz)