2017年8月20日日曜日

フィンランド トゥルク殺傷事件はまだ「テロ」ではない。扇動的なメディアに騙されないで



Very briefly in English: If you don't understand Finnish, read YLE English news instead of BBC about the Turku attack. Reason? See the English written parts written below.

昨日トゥルク(Turku)で起きた殺傷事件に関するBBCの報道は正確性が低く、誤報道が行われています。例えば「Finland killings: Knifeman 'targeted women in Turku terror attack'」と題された記事の中で:





image: BBC

「PM Juha Sipila told a press conference that Finland had experienced a terror attack for the first time.」(首相のユハ・シピラは記者会見で、フィンランドは初めてのテロリスト攻撃を経験したと述べた)

という文がありますが、フィンランド国営放送YLEの英語ニュースではこうなっています:





image: YLE

「If the criminal charge is confirmed to be terror-related murder, that would be a first in Finland.」(もしこれがテロ関連の殺人で刑事起訴されることとなれば、フィンランドで始めてのこととなるだろう)

フィンランド語での元々の発言は「Jos rikosnimike varmistuu terroristiseksi murhaksi, on näin ensimmäisen kerran Suomessa.」となっており、YLEの英語版が正確です。

このYLEとBBCの報道が大分違う意味を持っていることはおわかりですよね?現時点でこの事件はテロだと断定されていません。しかし実際の捜査や当地国フィンランドの報道はお構いなしに、BBCは勝手にこれをテロ攻撃だったと決めつけ、嘘を報じているのです。





image: Twitter

BBCの先の記事タイトルは日本語にすれば「フィンランド複数殺人:ナイフの男は『トゥルクのテロ攻撃で女性を狙った』」ですが、この記事タイトルは19日のある時点では「Finland stabbing a 'terror attack '」(フィンランド刺事件は『テロ攻撃』)というタイトルで、これがテロ攻撃だと認定されたかのような見出しでした。もちろん実際には違います。YLEはフィンランド語でも英語でも、警察がこの事件を「テロの可能性のある事件」として調査していると述べていますし、フィンランド中央警察の英語のツイートも:



(トゥルクの事件は現在「テロ目的を持った殺人とその試み」として調査されている)

と述べています。現時点ではこれはテロだと決まっていないと言うことです。この違いは大きいです。

これは例えば「容疑者」が「犯人」ではないのと同じほど大きなことです。テロとは人々に恐怖を与えるために行われる行為であり、ただの事件を「テロ」だと断言する行為はテロを助長する行為です。19日のフィンランドの警察による記者会見で、「今は個人がイデオロギーを元にテロを起こす時代」と言われていたように、現在のテロは昔のように大規模で計画的なものよりも、個人/少数人数がイデオロギーに影響を受け突発的に行うものが増加しているようです。

フィンランドでは以前にも学校での銃乱射事件や、外国人がスーパーで銃を乱射した事件が起きています。しかし、上記の首相の発言からもわかるように、それらの無差別殺傷事件は「テロ」ではありませんでした。そして、今回も今の時点ではそれらのものと同じくこれがテロではない可能性があります。これまでにフィンランドで起きた事件や、先日ヘルシンキで起きた自動車で複数人が轢かれる事件だって、恐怖を与えるという点ではテロと呼んでいいのでは、と思うかもしれません。しかしそれらがテロと一線を画すのは、これらの単発的な事件は、「いじめられていたから/人間嫌い」、「恋愛のもつれからの復讐」、「精神障害」など目的・理由が別にあるということ。テロはある思想を目標としながらも、事件を起こすことそのものの目的は「恐怖を与えること」だということ。そこが違いなのです。

テロリスト組織としては、こういったテロではない事件も「うちの組織がやった」などと犯行声明をだすことで、それを「テロ事件」に変えることができます。つまり、「単発的なただの事件」が、「いつまた起こるかもしれない数多くのテロのひとつ」に思わせることで、人々に恐怖を与え、そのイデオロギーを達成するための力とするのです。

BBCは国民から受信料を徴収するメディアなので、特に記事がたくさん見られるように人々を扇動する記事を書く必要は本来ないはずです。ただ、イギリス国内でテロが起きていることを考えると、他国にも類似したテロが起きているように見せることにより、国民の不満を下げる狙いがあるとも考えられます。スクリーンショットを取らなかったのが残念ですが、今回の件のBBCによる報道では「フィンランドはこれまでジハード攻撃を受けたことはない」などと、なにもそれを裏付ける証拠がないにも関わらず宗教的なテロのような報道をしていましたし、BBCの記事のタイトルもこの事件がただの事件ではなく「テロ事件」だと思わせるようなものにしています。これこそがテロの成し遂げようとしていることです。

イギリス国営放送BBCがあからさまに間違った報道をするのも(フィンランドのBBC記者がフィンランドを理解しない可能性はあるが)十分遺憾ですが、このような「思わせ報道」に関しては在フィンランド日本国大使館もその一端を担っています。8月19日に日本大使館が発した「Turku での死傷事件(続報)」(リンクはPDF)では「19日、フィンランド当局は、本事案の容疑者は、モロッコ国籍者でテロ目的によるものであると発表しています。」など、事件がテロ目的であったということが判明したかのような書き方をしていました。その次に日本大使館が出した「Turku での死傷事件(続報)」(タイトル変えれば良いのに・・・リンクはPDF)では「捜査当局は、本件をテロ目的のための殺人および殺人未遂事件として、捜査を進めています。」と正確な表記を行っています。

なお、NHKは「フィンランド殺傷 テロ事件として捜査」と題した記事で、「今回の事件をテロ事件として捜査」、「男は、女性を狙ったと見られる」などと、事件の要点について正確な表記を行っています(NHKの肩を持っているわけではないですが、正しく伝えている例として)。


Source: BBC, YLE

(abcxyz)

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